バングラディシュのグラミン銀行は貧民借金問題解決の一助になっているのかそれとも貧困ビジネスなのか
アジア最貧国の一つバングラディシュのおさらい
面積は日本の半分以下ですが人口は約1億6000万人います。
BC4世紀からインドのマウリヤ朝やグプタ朝の属領でした。
この頃は仏教が盛んだったのですが、13世紀から北インドにできたデリースルタン朝がイスラム系であったので現バングラデシュもあるこのベンガル地方にイスラム教が入りました。
そして18世紀後半、悪の枢軸国であるイギリスの東インド会社によってベンガル地方は植民地化されてしまいました。
インドが1947年にイギリスから独立し、1971年バングラデシュはパキスタンから独立しました。
1日2ドル以下で暮らす人が1億人を超える国
バングラデシュ一の人当たりGDPが900ドル台といわけでして、これを365でわると1日あたり約2.5ドル。国民の殆どが2ドル以下でも全く不思議ではありません。
しかし人口の六割ほどが農業に従事しているので食べるものに困っている人はそこまでおらず、2ドル以下で暮らしているから猛烈な貧困状態にあるとは言い切れないようです。
周りのみんなが平等に貧しい状態であれば不満もそこまででないかもしれません。
家族と一緒に過ごす時間を大切にしており日本なんかよりずっとバングラデシュの国民は幸福であると述べているブロガーの方も散見されます。
AIIB(アジアインフラ投資銀行)の送電線整備の融資や天然資源、インドと中国へのアクセスのしやすさで世界から注目されています。
日本はバングラデシュが独立した1971年からODAや海外青年協力隊,JICAなどを通して様々な援助を継続しています。ですから、かの国はとても親日国家と言えます。
ラナ・プラザ崩壊事故にみるバングラデシュの貧困
2013年4月、バングラのダッカ付近の町シャバールで8階建てのビルが突如崩壊し、通勤ラッシュの混雑時であったこともあり死者を1127人も出す大事故になりました。
この商業ビルは4階までが合法建築で、5、6,7,8階の計4階分が違法に増築されたものでした。
銀行やショップなども入っていたビルですが、上の階には複数の縫製工場があり、約5000人に人々がそこで働いていたといいます。多分とんでもない低時給で。
工場が請負っていた製品はベネトン、ボンマルシェ、プラダ、グッチ、ベルサーチ、モンクレール、ザ・チルドレンズプレイス、エル・コルテ・イングレスやウォールマートなどの欧米企業がメインです。
安い労働力を極限まで回して巨大な利益を貪るシステムです。
これは崩壊1年前のラナ・プラザです。7階、8階は下の階より床面積が広い上に大型の発電機が4基設置してあったといいます。そして数千台のミシンのと発電機の振動が共鳴して道路工事のドリル状態が日常的に起こっていたのですね。
人命の尊さなど微塵も気にせず資本家と多国籍ファッションブランドに労働力のみならず命まで搾取された実例です。
人口1600万人のメガシティー・ダッカの日常風景
都市の喧騒と言うにはカオスすぎる2014年の動画。とにかくうるさいです。
鳴り止まないクラクション、人々の怒声、馬車にリクシャー。
私なら命がけで決行しなければいけないところですが、手馴れた様子で道路を横断する人々。
「生命力」という言葉を思い出さずにはいられない動画でした。この9分の動画を見ている後半のほうでは、もはやクラクションの音が「オレハココデイキテル!」「オレモダ!」にしか聞こえなくなってきました。
マイクロクレジット。貧困層向けの銀行、グラミン銀行
普通の銀行から融資を受けられない失業者や貧困者向けに小額融資するマイクロクレジット。バングラデシュでは多くの貧困女性がグラミン銀行から融資を受けて何らかの個人事業を行い生活の足しにしています。
グラミン銀行の創設者ムハマド・ユヌス氏にノーベル賞
ムハマド・ユヌス氏はグラミン銀行を興しマイクロクレジットを始め、2006年にはノーベル平和賞を受賞しています。
宝石商の息子として生まれダッカ大学卒業後フルブライト奨学金をもらいアメリカの大学を卒業。州立大学で助教授をした後1972年にバングラデシュに帰国(パキスタンからの独立の翌年)、貧困問題に取り組みはじめます。
そして1983年ムハマド氏はグラミン銀行を創設しました。
バングラデシュの伝統的な銀行は主に男性に対してサービスを提供しています。しかしグラミン銀行は女性に焦点を当てており、貧しい女性を起業家にすることでその家族を貧困から救う機会を女性に与え続けています。
グラミン銀行は貧しい女性にも信用力があり、男性の借り手よりも返済能力が高いことも分かりました。
2021年8月までにはグラミン銀行には941万人の会員がいてその97%が女性です。81,678 の村にサービスを提供する 2,568 の支店を運営しており、バングラデシュの村の 93% をカバーしています。
資金調達に関しては、グラミン銀行はマイクロクレジットと包括的な金融を採用して、人々が自分のビジネスを始めるのに十分な資金を提供しています。さらに、銀行は、メンバーが投資する収益性の高い産業を選択するのに役立つ財務アドバイスを提供し、成長するための正しい方法を見つけるのに役立つ実践的なビジネスアドバイスを提供しています。
グラミン銀行は中国の農村部にも進出していますし、2018年にはグラミン日本も創設されました。
グラミン日本に関しては3年ちょいの活動で融資件数38件融資総額740万円とちっぽけすぎて「なにやってんの?」という感じです。
マイクロクレジット、マイクロファイナンスは貧困ビジネスなのか
貧窮している方々の暮らしを少しでも楽にするために生まれたマイクロクレジット。何も問題がなさそうに思われます。
しかしエコノミストであり、マイクロファイナンスにも関わってきたヒュー・シンクレア氏の「世界は貧困を食いものにしている」を読むと大変暗い気持ちにならざるを得ません。
この本で説明されているグラミン銀行は、バングラデシュ通貨のタカによる自己資金で運営され、地域社会の富を構築するために利子と利益は地元で再循環されるとしています。
ですからグラミン銀行は地域の貧困の解決に繋がっているといえます。
何が問題かというとグラミン銀行をビジネスモデルとしマイクロファイナンスで金儲けを目論む外資系金融業者の暗躍です。
利子と利益が地元で再循環せず、海外の経営者と投資家の手に渡るのであれば地元の経済が潤うことはありません。
この本ではマイクロファイナンス業者が行っている蛮行をメキシコ、モザンビーク、ナイジェリア、モンゴルという国々でしている事実が詳細に書かれています。
マイクロファイナンスは700億ドル産業なのだそうです。ほぼ7兆円産業。
結びに近いところ(P305)で筆者はこう書いています。
「世界から貧困をなくすという目的でマイクロファイナンスの700億ドルの使われ方が効果的なものであるのか?」
残念ながら数少ない例外を除いてこのビジネスは利益追求のためになされています。資本主義ですものね。
貧困を撲滅するという大義名分のもとあまり批判されずに堂々と搾取できることにうまみがあったのでしょう。
人間というか白人の資本家は本当に恐ろしい人種ですね。