アメリカの最貧困地域:アパラチア地方ウエストバージニア州
かつて石炭で栄えたアパラチア地方
アパラチア地方は、アメリカ合衆国の東部にあるアパラチア山脈地帯を指します。この地域は、石炭産業が盛んだった時期には栄え、多くの人々が石炭業で働いていました
ラチア地方は、主にウェストバージニア州、ケンタッキー州、テネシー州、バージニア州、ペンシルバニア州、オハイオ州、メリーランド州など、アパラチア山脈地帯にまたがる地域です。
石炭は、アメリカのエネルギー生産の中で長年重要な位置を占めてきましたが、近年では、天然ガスや再生可能エネルギーなどの競合するエネルギー源の普及により、需要が減少しています
それにともない労働需要も低下しアパラチア地方から人口が流出。老人や貧困層、無職の人や薬物中毒の人々が残されアメリカとは思えない様相を呈しています。
ウエストバージニア・マクドウェル群の貧困を伝える動画
2021年のアメリカ全体の貧困率は(世帯年収27000ドル以下)は11.6%となっています。
対してウエストバージには州の貧困率は16%、そしてアパラチア地域のマクドウェル群の貧困率は30%と全米でも最悪の地域の一つになります。
動画のニック・ジョンソン氏はアメリカのどの地域が良く、どの地域が悪いかを伝えアメリカ人が移住する時にどこへ行くべきかアドバイスしています。
そのくらい住む地域を変えたい人や変えたくても移動できない人が全米に多くいるということです。
マクドウェル群の1番大きな街ウェルチ(Welch)の様子です。朽ちるがままにされた廃屋がそこかしこに見られゴーストタウン化していますね。
ウェルチ1番の繁華街もほとんどの店が締まっていて、車も人もほとんどいません。
ここに住んでいる人たちの半数は生活保護を受けているようです。ここに住む4人に1人は何らかの障害を抱えており、働けるもしくは働いている人は3人に1人という地獄になっています。
自殺率も高く、ここに住んでいる人の平均寿命は全米平均より15歳低いとのこと。アメリカ人の平均寿命は76歳ですから、15歳を引くと61歳という驚きの若さです。
還暦迎えたら死んでいるみたいなことになっています。貧困による栄養失調と薬物依存が関係しているに違いありません。
1952年に12万人いたマクドウェル群の人口は2023年には2万人を切っています。より豊かな地域に引っ越しするお金がない人々が残っています。
ドラッグの蔓延に薬局チェーンウォルグリーンも関与
この地域では子供自身がドラッグをしていたり、子供が売られたりしていますが、両親の両方またはいずれかがドラッグで刑務所にいるため親戚に預けられたりしていますので、実の親と住んでいないことがよくあるとのことです。
2018年、大手薬局チェーンであるウォルグリーンは、アパラチア地方でオピオイド危機に関連して訴えられました。この訴訟では、ウォルグリーンが処方箋管理を不十分に行い、過剰なオピオイドの販売を行ったことが問題視されました。
オピオイド危機とは、1990年代以降、アメリカ合衆国でオピオイド系鎮痛剤の販売量が急増したことがにより多くの人々がオピオイドに依存し、乱用や過剰摂取が横行するようになったことです。
売れるから求める者に売りまくって儲けたということです。邪悪な貧困ビジネスです。
手口は、医師からの処方箋を不正に承認したり、オピオイドの処方箋を出す医師にキックバックを支払ったりです。
ウエストバージニア州に訴えられたウォルグリーンは和解金の支払いやオピオイドの販売量削減などの条件で和解しました。
具体的には、2000万ドルの和解金の支払い、適切な処方箋管理システムの導入、オピオイドの販売量を削減することなどが盛り込まれました。
同様にしてKrogerやWalmartも訴えられました。両方ともスーパーマーケットですが薬局部門を持っています。
マクドウェル群からはウォルグリーンもウォルマートも撤退し更に空洞化が進みました。
万引が多すぎるので商売にならない
ウォルグリーンやウォルマートの撤退はオピオイドを売りまくって訴えられたこともあるかもしれませんが、動画主ニックの聞いたところによると、万引が多すぎて儲からなかったことが原因であるそう。
客の万引も酷いですが、1番の被害は従業員による万引なのだそうです。
つまり住民自身がスーパーの撤退の原因で自らがその地域をもっと不便にしているという負のエクストリームスパイラルが渦巻いています。
大手企業が撤退すると税収が減り、税収が減ると教員の給料が下がる。そうなると教育の質が落ちます。
教師の給料はこの地域では高くて良いのですが、教員の住むまともな住宅がないのでよその群から来るまで通勤するひとが多いとのこと。
マクドウェル群に住むってどんな感じ?
18分あたりから実際にマクドウェルに住む旅館オーナーのサンディーさんのインタビューが始まります。
スーパーもない町で皆どのように生きているのか不思議でしたがアマゾンに頼って生活しているとのこと。
彼女は看護師もしていてカバンや車の中にいつもナルカン(オピオイド過剰摂取時の緊急蘇生薬)を忍ばせて必要な時に使える状態にしています。それくらい薬物中毒者が多いのです。
200ドル分のフードスタンプを食料配給の店の前で他人に50ドルの現金と交換してそのお金でドラッグを買う人もいます。食事での栄養よりもドラッグを優先する人がいます。
冒頭でこの地域の4人に1人が障害を持っていると書きましたが、石炭産業に従事していた時の事故や怪我によるものもあるのだそうです。だからその痛みを取るためにも麻薬が使われた結果多くの中毒者を産み出してきた過去がこの群にはあります。
一つの産業が終わり次に移行できなかった人々の墓場
であるとマクドウェル群は言えます。
これを対岸の火事と見ることもできます。
しかし、AIやロボットの普及が一寸先に見えるようになってきました。あらゆる仕事が消滅する危機にあり、次の産業にうまくシフトできない人間も多くでてくるでしょう。
その時、日本にもマクドウェル群のような町が雨後の筍の如く出現する可能性もあるのでしょうか。